その日はめずらしく雨だった。
食堂に向かういつもの道に、昨日まではいなかった女の人が座り込んでいた。
僕たちと同じ世界に来たばかりのようだ。
彼女はうつむき、眼を閉じていた。
ラムが女の人に近づいていく。
「お腹すいてるの?」
女の人は閉じていた眼を開く。
ラムを少し見上げると、ラムを睨み付け、また眼を閉じた。
次の日も女の人は同じ場所に同じ格好で座っていた。
その次の日も女の人の時計は壊れたままだった。
そのまた次の日、ラムは彼女に話しかけた。
「お腹すいてるの?」
彼女はゆっくり眼を開くと、とてもゆっくりとラムを見上げた。でもすぐに眼を閉じる。
その日からしばらくの間、ラムは自分のご飯の半分を女の人から少し離れた場所に置いて帰るようになった。毎回、覚えたての字で「あなたにこれを食べてほしい」という手紙を添えて。
ミンタと僕はそれを黙って見ていた。
ある日の帰り道、ラムは僕の服の袖を握りながら言った。
「マルゴット、私、明日は一人で食堂に行く」
僕はミンタをチラリと見た。
ミンタは手に持った本から目線を上げることなく
「そうか」
と一言だけ言って、そのまま同じペースで歩いていく。
ラムは僕の袖を離した。
次の日、僕たちはラムを見送った。
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