ー 俊 ー
やはりダメだったか。嘉人さんは穏便に済ませたいというお父さんの強い要望に応えたのだ。潤平さんがおとなしく車に乗ってくれる僅かな可能性に僕らも期待したかった。
楓ちゃんが叫んだのは予想外だったが、心情を考えれば仕方がないだろう。
後部座席では潤平が大男に両腕をそれぞれ抑えられている。意外にも抵抗は短時間で終わり、今は大人しい。僕たちのことを睨んでいるのはバックミラーで確認出来るが、特に何も言ってこなかった。
その日から潤平さんはマンションの一室に両親と軟禁状態になった。そして伝統的なカトリックの牧師から改めて聖書の教えを受けた。
牧師には釘をさしてあった。あくまで原初の聖書の都合の良い解釈を改めさせることが目的でキリスト教に入信させることが目的ではないことを。
あの日、潤平さんをマンションに送り届けた後、嘉人さんは言った。
「潤平君とはもう会えないかもしれないね。結果的に良いか悪いかはわからないけど、僕たちは彼の気持ちを無理やり否定してしまった。」
嘉人さんはとても悲しい顔をしていた。
大学生活のうち、全てを投げ出した3ヶ月は、果たして誰かを幸せにできたのだろうか?僕は自分に問いかけた。
コメント