ミニチュアガーデン 15

2006 06 箱庭 Miniture garden

ー達也ー

新学期が始まる直前の三月、俺たちは嘉人さんと俊から、潤平を強引に拉致したことを聞いた。今潤平は家族に軟禁状態にされているらしい。

二人がそこまでやるとは思っていなかった。嘉人さんが人の気持ちを大切にすることはみんなが知っている。

嫌われちゃったかなと笑っていた嘉人さんの本当の気持ちはその場にいる誰もが

わかっていた。

俊はみんなに新しいサッカーサークルを作ることを提案した。せっかく知り合えたメンバーとサッカーを続けたいこと、サッカーをやったことのない人でも気軽にサッカーができる場所を提供したいことを理由として挙げた。

俺たちは全員で賛成した。

チーム名はカレアウェと名付けた。オランダの図書館の検索システムの名前から取ったが、その検索システムを選んだ理由は特になかった。意味のある名前は俺たちを縛ってしまう気がしたからだ。あの時の俺たちには意味がないということに一番大きな意味があった。

裕也がどうせならキャッチコピーを作ろうと言い出し、意見を出しあった結果、「来るものは拒まず、去るものは全力で追う」に決まった。

俺たちは翌月の新入生を対象に開かれるサークルオリエンテーションで、カレアウェの勧誘と新入生に向けて宗教への注意喚起のビラの2枚を重ねて撒いた。もちろん主たる目的は後者だった。

敬士と俺はすでにまとめた資料を改めて大学に提出していた。情報に早紀さんのことを追加したことで、大学側は事態を重く受け止め、何かしらの対応をすることを約束してくれた。そして大学は公言どおり、今年度から新入生向けに宗教対策の必修科目を設定した。

どこからか新聞社にも情報が流れ、大手新聞でも原初について問題提起と注意喚起がなされた。

そういったことが重なってか、正一郎からクレームの電話が掛かってきた。

何をやったかわかっているのかと耳元で怒鳴られたので、俺は丁寧に自分達のやったことを説明してやった。大学側が正式に動き出したことなど、いくつか知らない情報があったらしく、話が終わる頃には正一郎は涙声になっていた。

今回の件で正一郎の立場は地に落ちたのだろう。神に与えられた試練だと思って頑張れば良い。

消え入りそうな声で、どうしてそこまでするのかを聞かれた。迫害されれば、されるほど正しいのだから良かったじゃないかと言ったところで電話を切られた。

後日俺はご丁寧に非通知設定せずに描けてきた正一郎の電話番号を大学の事務局に追加情報として伝えた。

夏が本格的に始まる頃だっただろうか、嘉人さんが潤平をカレアウェに連れてきた。

突然のことに驚いたが、俺たちはキャッチコピーどおり歓迎した。

普通にサッカーをした。

出会ってから二年、その日の夜に開かれた歓迎会で俺は初めて潤平と乾杯した。

世の中に神様がいたって構わないが、神様を中心とした箱庭で俺は生きていきたくない。箱庭から世界平和を祈ったところで、世界は何も変わりはしないのだ。

神様を信じるなと人に強制はしないが、まず自分を信じることが大事だと思う。

困ったときは目に見えない何かに頼らずとも目に見える友人を頼る。

神様に頼らなくても、それぞれが自分の周りの幸せを願い、行動すれば、きっと世界も平和になる。

だから俺は自分の周りの人の幸せのために生きていたい。ありがとうと言いながら、ありがとうと言われながら生きていたい。

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