ファイナンシャルリテラシー 基礎

自由な選択には現実問題としてお金が必要になります。今回はお金の仕組みについて資本主義(現代では株主資本主義とも言える)と信用創造の面から基礎となる知識を紹介します。


1 信用創造

 現代の中央銀行の制度では、お金は銀行制度により理論上は無限に発行が可能です。

 以前は金といつでも交換できる金兌換券として存在していた各国通貨ですが、ニクソンショックにより、現代の通貨は価値を担保する物的担保はなくなり、国家の信用というあやふやなもので成り立っています。

信用創造とは、無いお金を生み出すことができる仕組みのことで、銀行は手元にお金がなくても、お金を貸し出すことができるのです。まさにお金を創造することができるということです。

ここで重要なのは、誰かが借金をした際に、この信用創造は可能となるということです。つまり、誰かが借金をすることで世の中にお金が生まれるのです。「誰かの借金は誰かの所得」となるのです。

例えば、3,000万円の住宅ローンを銀行に申請し、申請者に返済能力があると判断された場合、銀行は住宅を建設した業者の通帳に3,000万円を振り込みます。具体的にはデジタルデータに3,000万円と入力するだけです。重要なのは、この時に銀行には現金が無くて良いという点です。

申請者は3,000万円を持っていませんし、銀行も持っていません。しかし、世の中には3,000万円が創造されることになるのです。

前述したように、無制限にお金を世の中に配ってしまうと、インフレなどいろいろと大変なことが起きるため、各銀行は準備預金制度等のルールに従い、貸出できる金額が制限されています。

このような制限をしている銀行の銀行が日本銀行です。アメリカではFRB(連邦準備理事会)、EU加盟国ではECB(欧州中央銀行)が同様の中央銀行の役割を果たしています。また、各国中央銀行を統括する組織としてスイスバーゼルにあるBIS(国際決済銀行)が存在しています。


2 企業活動

現代の多くの企業は株式会社という形を持っています。株式と聞くと、投資の売買でお金儲けをするイメージがありますが、株主になるということは部分的に会社のオーナーになるということです。株式会社はもちろん、社会貢献など多様なステークホルダーの利益も求められますが、その仕組み上、基本的にはオーナーである株主に利益を還元するための集団なのです。

株式会社の原型と言えるのは、東インド会社です。当時、ヨーロッパ人はインドの香辛料等の需要が高かったため、インドとの貿易で莫大な利益を得られる状況でした。一方で、当時の航海術は現代よりも当然劣っており、途中で沈没したり海賊に襲われたりといったことが頻発しており、インドから貿易商品を持ち帰ることができるかは運次第という状況でした。

10回失敗しても1回帰港できれば儲かるというほどの利益が見込めたそうですが、さすがの資産家もそこまでの資本力はありませんでした。そこでできたのが東インド会社という組織です。東インド会社は大勢の資本家から出資してもらい、資本家たちの代わりにインドへ出かけていきます。

資本家は少ない資産で何回も航海させることができ、東インド会社は貿易で得た利益の分け前をもらうという仕組みができたのです。資本家の1回あたりの儲けは少なくなりますが、多少のコストがかかっても必ず儲かるという状況は良い条件でした。

これは、現代の保険の仕組みにも似ています。

日本は自分、相手、世間の3方良しの考え方が美徳とされていますが、他国では株式会社は株主のためにある集団と認識されています。それぞれに良い面も悪い面もあるでしょうが、この原則は知っておく必要があるでしょう。


 お金の流れ

日本におけるお金の流れについて整理しましょう。お金が移動する場合は、説明するまでもないため、今回はお金が生まれる場合について説明します。

「誰かの借金は誰かの所得」の原則を思い出しましょう。現代では、借金をするのは基本的には政府、企業、個人の3パターンです。

まずは一つ目の政府から見てみましょう。日本は借金大国だという話がニュースなどで取り上げられていますが、この際に「日本」と表現されているものの実態は「日本政府」です。

政府は公共事業をするために、税収の他に国債を発行しています。国債は政府の借用証書です。つまり、政府は借金をしているのです。政府の借金は誰の所得なのでしょうか。

答えは我々国民です。政府が借金をすればするほど国民の所得は増えるのです。コロナ下で政府は国債を発行して、つまり借金をして全国民に一律10万円を給付しました。あの時、皆さんの手元には10万円の所得が実際に増えたことが一番わかりやすいでしょう。

政府が給付金や公共事業を行い、市場にお金を投入する、つまりマネーストックをコントロールすることを財政政策と言い、経済政策の一翼を担います。

政府は国債を市中銀行に買い入れてもらい、資金を調達します。その際の流れが上の図です。

一方で政府はマネーストックを縮小させる術も持っています。それが税です。税金により、マネーストックが増えすぎた場合に税により調整をすることができるのです。もちろん、税には格差是正などの社会的な役割もあります。

では、次に企業と個人はどうでしょうか。企業や個人は基本的に市中銀行から借り入れをします。その結果信用創造としてマネーストックが拡大します。

そして、この経済活動をコントロールする経済政策を金融政策と呼びます。これは日本銀行が中心となり、金利を上げ下げしたり、市中銀行(民間人が取引できる銀行)の準備預金などを強制的に調整することで、借金のしやすさをコントロールする方法です。金利が高いと、借金する人は減ります。逆に金利が低ければ借金をして設備投資や新規事業、住宅購入などが活性化します。

簡単ではありますが、私たちの生活の基盤となるお金はこのような仕組みでコントロールされています。細かいことを言うとキリがありませんが、金融はあらゆるものの根幹になっています。これらの知識を元にニュースを読み解いたり、人生設計を行うことで、少しでも皆様にとって良い選択ができるようになることを期待しています。

次回は今回の知識がどう日常に役に立つのか、アベノミクスについて解説したいと思います。

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